はじめにー中小企業を取り巻く社会情勢(現状と課題)―

景気循環に伴い、社会情勢も変化します。今が良いから大丈夫という考えではいけません。

避けられぬ人手不足に対して、中小企業に求められるのはITの力を活かした働き方の改善を通じた生産性の向上です。

国内の経済動向

ここではまず、国内の経済動向について整理することにする。

内閣府の月例経済報告(2019年3月※1)では、景気について「このところ輸出や生産の一部に弱さも見られるが、緩やかに回復している」「先行きについては、当面、一部に弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。

ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある」としている。「景気は緩やかに回復」の見方は維持しつつも、景気全体の判断については3年ぶりに下方修正した。

国内景気については、ここ数年の好調さは続いているものの、先行きの不透明感から今後については警戒・懸念する声も徐々に出始めている。次のグラフは、国内総生産を名目、実質(※2)の双方で示したものである。

2007年以降、1月時点の結果を元にした推移であるが、2018年は実質GDPで534兆円、前年比の成長率は0.7%と、前年(2017 年)の成長率1.7%と比較すると勢いは減ったものの、成長を続けていることがわかる。

国内総生産

※1:「月例経済報告(平成31年3月20日)」(内閣府)
※2:名目GDPとは、一定期間(通常は1年間)に国内で生産されたモノやサービスの合計額のこと。実質GDPはそれから物価変動による影響を除いた額。国の成長度をみるときは実質GDPを参考にすることが多い。

短観・業況判断DI

企業の景況感を示す指標である日銀短観(※3)での業況判断DIも、ここ数年は景気判断が良い傾向が続いている。

大企業や中堅企業と比べると中小企業の業況感は低いものの、全体としては好調であるといえよう。

※3:日本銀行の全国企業短期経済観測調査。景気が良いと感じる企業の割合から、悪いと感じる割合を引いたもの(DI値で示される。「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つから選択)。調査は四半期ごとに年4回実施される。

景気動向指数

また景気動向指数(※4)をみても、大きなマイナス局面がない時期が続いているために景気がよいと判断される傾向が強い。

こうした指標からは総じて景気は良いとされ、景気回復の長さも戦後二番目だといわれることが増えた。企業収益の改善、投資の増加、雇用環境の安定など、よい循環が生まれているといえる。

ただし、近年の一進一退の状況をみたとき、いわゆる「足踏み」の状況が続いていることから、大きな成長もなく推移しているとの指摘があるのも事実である。

※4:内閣府が毎月公表している経済指標で、景気に関連する生産活動、金融、消費から物価など、様々な指標をもとに指数を出す。CIとDIの2つの指数がある

CI(Composite Index)は様々な統計結果を活用してひとつの指数を作成する。一方のDI(Diffusion Index)は前年度比較で増加・不変・減少に分類し、その割合から算出する指数。ここではCI で変化を示している。

グラフにある「一致指数」とは現況とほぼ一致している指標で、企業利益や求人倍率などの11の指標を合成して作成される。

「先行指数」とはその一致指数から数カ月前に変動するとされるもので、東証株価指数や実質機械受注など12の指標で合成する。「遅行指数」は現況に遅れて動く指数のことで、実際の経済活動の結果としての完全失業率や法人税収入、消費者物価指数などがある。

消費者物価指数(CPI)

一方、消費者の動向はどうか。

総務省統計局が毎月発表している消費者物価指数(※5) によると、消費増税が行われた2014 年に高い上昇率がみられたが、その後は安定的な動きとなっている。モノを買う人が増えれば上昇率は高まるが、逆に買う人が少なくなれば下降傾向を示すといわれる。

昨今、景気は良いといわれる一方で、物価指数が上昇しているとまではいえず、消費者の買い控え傾向が続いていると考えられる。

※5:消費者物価指数(CPI:Customer Price Index)は商品やサービスの小売価格を集計した指標で、物価の変動をみるのに役立つ。

中小企業の動向分析

2019年の世界経済は中国経済の失速や米中貿易摩擦、イギリスのEU 離脱による景気の下振れ等、海外のリスク要因による影響も懸念されているが、日本経済は2012年12 月に始まった景気拡大の流れが2019年に入っても続いている可能性があるとの見方が強く、現状では景気後退局面に入ったとの見方にまでは至っていない。また中小企業の業況もおおむね改善されているとみられている。

ここではいくつかの指標で中小企業の経営状況について検証することにする。

まずは業況判断DI について。これは経済産業省中小企業庁と(独)中小企業基盤整備機構による「中小企業景況調査」に基づく、中小企業の業況感(※6)を示したものである。

2009年のリーマンショック後の底から、上下に推移を繰り返しながらも徐々に回復傾向にあることがこのグラフからわかる。同じく、売上高、経常利益、資金繰りをみても、同様の推移が確認できる。

※6:中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」「景況調査の業況判断DIは、前期に比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合(%)から、「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの」

日本の中小企業の現状整理

続けて、企業全体の中で中小企業が占める割合についてみてみる。

中小企業庁の「中小企業白書」によると、日本の中小企業は約381 万社(2014 年時点)、企業数全体では99.7%、従業員数では約3,361万人と、雇用全体の7割を占めている(※7)。

さらに、企業規模別の企業数の推移をみてみると、データのある1999年から徐々に総数を減らしていることがわかる。特に小規模企業(※8)で減少傾向が続いている。

では小規模企業を中心にその数を減らしている背景に何があるのかを見てみる。

以下のグラフは、2000年以降の企業の「休廃業・解散」および「倒産」の件数の推移を示したものである。「休廃業・解散」は2003 年を底に増加傾向が続いている。一方、倒産件数は2008年以降、減少傾向である。

倒産ではなく休廃業や解散が多い理由は、後継者不足や人手不足により事業の継続が困難になったり、経営悪化を踏まえ、負債が膨らむ前に事業をたたむケースもあるだろう。事業承継には親族、従業員への承継、さらにM & A の手法もある。しかしそうした方法がかなわなければ、休廃業に至るケースは多いと考えられる。

休廃業・解散件数、倒産件数の推移

では小規模企業を中心にその数を減らしている背景に何があるのかを見てみる。

以下のグラフは、2000年以降の企業の「休廃業・解散」および「倒産」の件数の推移を示したものである。「休廃業・解散」は2003 年を底に増加傾向が続いている。一方、倒産件数は2008年以降、減少傾向である。

倒産ではなく休廃業や解散が多い理由は、後継者不足や人手不足により事業の継続が困難になったり、経営悪化を踏まえ、負債が膨らむ前に事業をたたむケースもあるだろう。事業承継には親族、従業員への承継、さらにM&A の手法もある。しかしそうした方法がかなわなければ、休廃業に至るケースは多いと考えられる。

いくら景気拡大傾向が続いているとはいえ、中小企業を取り巻く経営環境は決して楽観視できるものではないことがわかる。

「働き方改革」と「超スマート社会」

フォーバルはこれまで、多くの中小企業の経営課題と向き合ってきた。経営者が抱える課題は幅広く、財務環境や業務拡大、情報管理、社員教育、業務改善、後継者問題など多岐にわたった。そんなコンサルティング業務において常に念頭にあるのは企業が「永続すること、存続し続けること」である。

近江商人はかつて「三方よし」の考え方に基づく商売をしていたといわれる。すなわち、商売人にとって利益をもたらす「売り手よし」、それを購入する側が満足する「買い手よし」、さらにそれにより地域社会や生活環境等が潤う「世間よし」、この3者の関係性こそが仕事を永く続けていくことができるベースの視点だとするものである。

これは今の企業経営にも当てはまるのではないかと考える。「世間よし」には地域社会に加えて国が入るかもしれない。企業活動により得られた利益から納税をすることで、この国の経済は回っている。企業総数のうちの99.7%、労働者の割合でも7割に至る中小企業はこの国の根幹を成す存在である。企業が永続し、存続し続けることで価値や利益を生み出し、顧客とwinwinの関係を構築し、さらに税金により国や地域を支えている。この国を形づくっているのは中小企業といっても過言ではない。

その中小企業は今、新しい時代を前に大きな壁に直面している。
多くの企業経営者と関わる中でその思いは次第に大きくなり、今がまさに動き出すときだと我々
は考えている。その壁とはすなわち、戦後最大の労働制度改革ともいわれる「働き方改革」への
取り組みであり、さらに「第4次産業革命」を踏まえた「超スマート社会(Society5.0)」である。

2019年4月に施行された働き方改革関連法に基づくさまざまな改革は、労働環境の改善に加えて、労働時間や業務内容の再検討をし、効率的な仕事の仕方を考えるきっかけになるだろう。時代の変化に対応し、仕事の内容や手法、労働者の配置、設備投資等、多角的に経営者自身が自社について見つめ直すことが求められているともいえる。そして多くの中小企業が直面する人手不足や生産性向上、従業員の能力アップなどを導き出し、目まぐるしく変わる経営環境や社会情勢にも負けない、強い組織づくりの実現に向けて立ち上がらなければならない。

フォーバルでは、これまで積み上げてきた中小企業経営のノウハウ、また直面する課題への提案の経験などを踏まえ、中小企業の実態把握を目的とするアンケートを企画した。新しい時代を前に、まさに今、中小企業が直面する様々な課題を浮き彫りにし、取り組むべきことは何かを検討するためである。

そして、「第4次産業革命」や「超スマート社会」を念頭に、検討しなければならない大きな課題として3つの視点を設定した。

1:人手不足状況
2:働き方改革
3:生産性向上

本白書は、上記3つの視点で行ったアンケートを通して検証した中小企業が抱える課題や、来たるべき「超スマート社会」への対応策について検証するものである。

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。