中小企業経営者実態調査の概要

限られた人的資源を活かすために、社員教育やITの投資が欠かせない状況です、

大切なのは「情報」。味方につけて、ヒト・モノへの正しい投資と新たな経営戦略づくりが求められています。

第1章 人手不足状況

  • 有効求人倍率や完全失業率などから昨今の労働市場をみると、売り手市場が続いている。また中小企業の社員に係る過不足状況推移をみると、近年は人手不足状況が続いていることがわかる。
  • 日本は人口減少社会に突入し、また少子高齢化の進捗もあいまって生産人口が減少傾向にある。こうした構造的課題を背景に、人手不足状況は今後も続いていくことが予想される。
  • フォーバル調査では、回答企業の48.0%が人手不足だと回答した。他調査ではもっと多い結果もみられた。その対応としては、「今いるメンバーで対応している」が最も多い結果となり、社員への労働負荷が増えることが懸念される。
  • 慢性的な人手不足状況への対応策として、現在注目されているのが多様な人材の活用であり、それは「子育て中の女性」「家族などを介護している人」「シルバー世代」「外国人」などである。政府は「一億総活躍社会」を掲げて、どのような境遇の人であっても個性や多様性が認められ、生きがいを感じられる社会をめざしている。
  • これらの注目人材は、しかし生活において多くの制約があり、かつ企業側にも負担に感じる部分があるのも事実だろう。テレワークやフレックスタイムなど新しい仕組みを導入することや、その他の制度を検討することにより、多様な働き方ができる環境を整えることが今後は大切になってくると考えられる。

第2章 働き方改革

  • 戦後最大の労働法制改革ともいわれる「働き方改革」。「長時間労働の是正」、「多様で柔軟な働き方の実現」、そして「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を目指して関連法が成立し、2019年4月から順次施行されている。
  • これらの改革は働く人の立場に立って労働環境を改善していくことが骨子ではあるが、政府は企業側の利点として、「魅力ある職場づくり」→「人手不足解消」→「業績向上」という循環をつくっていけると説明している。しかし企業によっては、新たに取り組みが増えるなど負担が大きくなる可能性がある。
  • フォーバル調査では、働き方改革への認知や取り組み状況についての質問を行っている。認知に関しては、1年間で認知が進んでいることがわかったが、「よく知っている」との回答自体はほとんど増えておらず、改革の中身がどこまで経営者に共有されているかについては疑問が残った。
    また取り組み内容から伺えることは、働きやすい環境づくりと労働生産性の向上を進め、その結果として長時間労働を減らしていこうとする意識である。しかし、2018年2月段階では取り組む企業数自体が少なかったため、改革を進める意図や必要性については今後も積極的に伝えていく必要がある
  • 働き方改革を進める上で基本となるのが社員の労働時間管理の徹底、そして時間外労働の把握と削減への取り組みである。社員の健康維持は、企業の安定経営にとっても不可欠な要素である。業務の効率化・自動化を進め、また社員への教育を通して意識改革を進めるなどの取り組みを通し、具体的に長時間労働の削減につなげることが求められている
  • 2019年4月に施行された働き方改革関連法を、企業の規模に関係なく対応すべきことと、自社が関連する場合に対応すべきこと、この2つの切り口で整理すると以下のようになる。

    <企業の規模に関係なく対応すべきこと>
    1:時間外労働の上限規制
    2:年次有給休暇の確実な取得
    3:労働時間の客観的把握
    4:同一労働同一賃金の施行

    <自社が関連する場合に対応すべきこと>
    5:高度プロフェッショナル制度(通称:高プロ)の創設
    6:フレックスタイム制の清算期間延長
    7:勤務間インターバル制度の導入促進
    8:産業医・産業保健機能の強化
    9:残業の割増賃金率の引上げ

  • これらについては、まず知り、理解を深めることから始め、企業ごとに置かれた環境や課題も違うことから、自社にとって必要な、具体的な対応策は何かを考えていく必要があるだろう。

第3章 生産性向上

  • 公益財団法人日本生産性本部が発表した、国別の労働生産性を比較したグラフ(OECD=経済協力開発機構加盟国36か国中)によると、2017年時点で日本は21位であった。必ずしも労働生産性が高いとはいえない状況にある。
  • 人手不足状況に加えて、働き方改革の推進により、今後はますます生産性向上が求められることになる。まずは業務の棚卸と見える化をするとともに、社員の時間の使い方を把握し、効率化への取組みを進める必要がある。そのとき重要になる視点は「時間効率を上げること」であると考えられる。
  • また、この効率性を考える際に大切なのが社員教育である。幹部教育やマネジメント、実務のスキル、新人教育に加えて、コミュニケーションやコンプライアンス、意識改革など、その幅は広い。しかし、フォーバルが実施した社員教育に取り組んでいるかを問う設問では、「実施していない」との回答が最も多く、40.7%であった。また実施していても積極的に実施している企業は少なかった。社員教育の手法としては「OJT(日常業務を通じての教育)」が最も多かった。
  • 人手不足状況が続くと予想される中、いかに人材を効率的に活用していくかが今後の生産性向上の達成には不可欠な要素である。それに向けて社員教育はとても重要な手法であると考えられる。
  • その他、財務環境の見える化や分析、企業の信用性にもつながる第三者認証の取得中小企業支援制度の活用など、さまざまな手法を活用しつつ、生産性の向上に向けて取り組みを強化することを提案したい。

終章 超スマート社会と中小企業

  • GAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーの登場は、新たな時代の訪れを感じさせるのに十分なインパクトであった。また第4次産業革命といわれるAIやIoT、ビッグデータ、ロボットなどの登場は、今後の中小企業の生産現場においても、経営管理においても、役立つものが多くあるとみられている。
  • これまでの機械化や石油の存在が産業を大きくしてきたのと同じように、昨今は情報の活用こそが次世代の経済をけん引する存在になるとの期待感がある。
  • 日本でも、情報技術を活用しつつ新しい製品や市場をつくり出し、かつ生産性の効率化を進めることが成長の鍵であると考える傾向が高まってきた。
  • 新しい革新的技術が私たちの社会の課題を解決し、さらに暮らしをより良いものにする。日本はいま、現実空間とサイバー空間を融合させた新しい社会の在り方を世界に先駆けて実現させようとしている。それが政府の掲げる超スマート社会、「Society5.0」である。
  • 超スマート社会は目の前まできている。2019年度は、企業がこの変化に対して、具体的な行動に移らなければならない時期であるともいえる。しかし多くの中小企業は、どこまで準備が進められているだろうか。
  • 忙しい経営者こそ、「情報」を味方につける新たな経営戦略づくりへ。モノへの投資(機械化による効率化・情報の蓄積と活用・情報セキュリティ)とともにヒトへの投資(人材教育による情報の利活用)を進めていかなければならないだろう。

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。

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