人手不足状況への政府の見解や対策の現状

人手不足状況への政府の見解や対策の現状

慢性的な人手不足状況への対応策として注目されていることのひとつに、多様な人材の活用がある。

ここでは「女性」「介護している人」「シルバー世代」「外国人」などに焦点を当てて、現状の議論や企業側の意識などについての分析を試みる。

ここまで述べてきたように、慢性的な人手不足状況に対して、政府も魅力ある職場づくりや求人と求職のマッチング、能力開発支援などの必要性についてアピールし対応に乗り出しているほか、多様な人材の雇用促進に向け、法整備や広報活動を実施している。

以下は、慢性的な人手不足状況において多様な働き方が注目される中で、注目人材としてその活用拡大に向けた動きがみられる人材である。ここではこれら人材についての、近年の動きを整理したものである。

女性活躍に向けた環境・法整備

女性の社会進出が注目された1980年代、男女雇用機会均等法が成立し、性別を理由とする差別の禁止がうたわれたほか、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止等が決められた(第9条)。具体的には以下のようなものである。

・婚姻、妊娠、出産を退職理由とする定めを禁止
・婚姻を理由とする解雇を禁止
・ 妊娠、出産、産休取得、その他厚生労働省令で定める理由による解雇その他不利益扱いを禁止
・ 妊娠中・産後1年以内の解雇を、事業主が、妊娠等が理由でないことを証明しない限り無効

これは法律として成立しており、働く女性の地位向上に向けたターニングポイントになったことは間違いないが、それでも働く女性の立場が厳しい状況は現在も続いている。

昨今のニュースで取り上げられることの多い待機児童問題では、働く意思があっても働けない女性の存在がクローズアップされた。共働き世帯が当たり前となったいま、働きたくても働けない女性がいることは、今も男性が中心の労働市場の姿を想像させるのである。

以下は、育児休業制度の利用状況の推移を示したものである。最新のデータでは、女性の育児休業制度利用率は88.5%(2017年度)であるのに対し、男性は7.5%にとどまっている。男性が育児休業を利用する割合は少しずつ上昇傾向がみられるものの、女性と比べればその数字は低く、男性の育児参加が厳しい状況がうかがえる(※9)。

※9:厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査の結果概要」(平成30年7月30日)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-29r/07.pdf

預け先が見つからない理由は、働きたい女性がかつてより増えていることに加え、預け先の施設が少ないこと、施設があっても保育士自体が不足していることなどが挙げられる。

政府は1億総活躍社会の実現に向け、労働力としての女性の存在に注目しているが、実情は、女性が子育て中も仕事を持つことはまだまだ厳しいといえる。

子どもを産み、育てやすい社会を作るためには、待機児童問題の解決や高校の実質完全無償化の実施などを通し、保育施設不足や経済的事情で子どもを産むことのできない状況への改善策に取り組むとともに、女性が働きやすい職場環境づくりも必要である。もしくは間接的に夫が家事のサポートをし、女性の負担を軽減していくような形もあるだろう。

こうした状況に対し、政府は2015年に「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」を可決・成立させ、翌年に施行させた。これにより国や地方公共団体、民間企業などに対し、「女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業選択に資する情報の公表」が義務づけられた(※10)。

ここでいう民間企業については、常時雇用する労働者が300 人以下の企業は「努力義務」とされている。

また「女性活躍加速のための重点方針2018(※11)」において、女性が直面している様々な困難が解消された「フェアネス(公正なこと)の高い社会」の構築がうたわれている。いまだに残る「男社会」がもたらす女性活躍への弊害の解消や、少子化・人口減少に直面する日本においては、女性活躍の拡大が多様性を生み、生産性向上や経済成長に資する付加価値を生み出す原動力となるとして、女性が働きがいを持てる就業環境の整備を促している。

女性、特に子育て中の女性が活躍できる場づくりとは、待機児童問題への対応のみならず、例えばテレワークの実施や時短勤務、フレックスタイム制導入など、多様で柔軟な働き方を可能にする仕組みや、ワークライフバランスを推進する姿勢、休職や復帰に関する制度の整備、非正規雇用労働者の待遇見直しなど、いろいろな取組みが可能だと考えられる。男性の育児休暇取得拡大もひとつの対策であろう。こうした取り組みについては、大手企業では着実に進められているとしても中小企業では厳しい実態もある。

※10:「女性の活躍に関する状況の把握、改善すべき事情についての分析」を行い、それについての「状況把握・分析を踏まえ、定量的目標や取り組み内容などを内容とする『事業主行動計画』の策定・公表等(取り組み実施・目標達成は努力義務)」「女性の活躍に関する情報の公表(省令で定める事項のうち、事業主が選択して公表)」とされている。

内閣府男女共同参画局HP
http://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/horitsu_kihon/index.html

※11:内閣府男女共同参画局「女性活躍促進のための重点方針2018」
http://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/jyuten2018_gaiyou.pdf

シニア層活躍の場の拡大

2018 年時点での日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26歳となり、ともに過去最高を記録している(※12)。また厚生労働省の研究班(厚生科学審議会地域保健健康増進映像部会)は、健康に日常生活を送ることができる期間を示す「健康寿命」が、2016年は男性72.14歳、女性は74.79歳であったと公表した(※13)。少子高齢化社会において高齢化率も上がり続けているが、「元
気なシニア世代」が増えているのも事実であるといえよう。

以下のグラフは60歳から64歳の雇用者数と、65歳以上の雇用者数を比較したものであるが、2015年に初めて、65歳以上が60~64歳の雇用者数を超えた。これは65 歳以上の雇用者数が増加傾向であることを示している(※14)。

また折れ線グラフは、65歳以上の人口に占める労働者の割合を示したものだが、それも上昇傾向が続いている。

※12:「平成29年簡易生命表の概要」内、「1 主な年齢の平均余命」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/dl/life17-02.pdf

※13:「健康日本21(第二次)」中間評価報告書(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000378318.pdf

※14:「平成28年版高齢社会白書」内、「高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(4)」(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_2_4.html

以下は同じく内閣府から、「労働力人口に占める高齢者の比率」を見たものである。年々上昇を続け、2014年以降は10%を超えるようになっている。

さらに、内閣府の調査で高齢者の就労希望を聞いた質問では、「いつまで働きたいか」を問う質問の年齢に違いはあるものの、就労を希望する高齢者の割合は7割を超えている。

昨今の人手不足状況を背景に、多くの高齢者が働き続けており、また働きたいと思う高齢者が多いのも実情である。

そしてこの「超長寿社会」に向けて政府が考えているのが「全世代型社会保障への転換」(子育て・医療介護・年金)である。若者から高齢者まで、すべての国民が元気で、活躍できる、安心できる社会を創ることが求められるいま、働く意欲のある高齢者が働ける環境づくりにも注目が集まっている。

従業員の定年年齢については、60歳以上とする必要があることが法律で定められている(高年齢者雇用安定法第8条)。また原則65歳の公的年金受給開始年齢にあわせ、2013年からは高年齢者が年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられるよう、職場環境を整備する目的で継続雇用制度も整備された。

ただしこれは、65歳への定年引上げを義務づけるものではない。しかし昨今の社会保障費の増額に伴い、今後は年金受給開始年齢の引き上げや65 歳定年制の導入などに関する議論が進んでいくことになると予想される。

人手不足が叫ばれる中、政府には60歳、65歳という定年の枠にとらわれず、働ける高齢者には長く働き手となってもらい、年金を受け取る時期を遅らせるという意図があるのはわかるが、その他にも超高齢化社会に向けて、元気なシニア世代が活躍しやすい労働環境を整えることも重要であると考えているためである。

介護離職ゼロに向けた支援

上記のように超高齢化社会において活躍できるシニア世代が増えるのはうれしいことだが、一方でシニア世代を含め、家族の介護問題に悩む現役世代が多いのも事実である。

核家族化という言葉が生まれて久しいが、家族の形が多様化し、親世代と同居する世帯が減ったとはいえ、介護の必要性から休職や離職を考えざるを得ない人がいるのは間違いない。

総務省が発表した「平成29 年(2017 年)就業構造基本調査(※15)」によると、介護をしている人は627万6千人で、うち仕事をしている人が346万3千人、していない人は281万3千人となっている。これを世代別で見てみると、男性は「55~59歳」が87.8%、「40~49 歳」が87.4%、「50~54歳」が87.0%と、軒並み働き盛りの年齢で高くなっている。

「平成29年就業構造基本調査」結果の概要(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf#search=%27%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E9%9B%A2%E8%81%B7+%E7%B5%B1%E8%A8%88%27

少子高齢化社会では、高齢人口が増加することに加えて、その高齢者を支援する現役世代の数の減少も問題になる。特に今後は団塊世代の70 歳代突入によりその傾向がさらに高まると予想されている。

また、介護の問題は結婚・出産の時期とは異なり、企業でも中堅層の労働者を直撃することが多い。計画的に対応できないのがこの問題の難しいところだろう。

さらにその問題はすべての人に同様に訪れるものではなく、被介護者の状態によっては常時付き添いが必要な場合もあれば、そうでないこともあるだろう。一言で介護問題といっても兄弟の有無、介護ができる環境かどうか、介護保険の認定レベルなどにより状況は個々それぞれで違うため、一律の制度も設けにくいテーマでもある。

そしてもし介護離職に至れば、経済的な困難さに直面することは明らかだ。定期的な収入源がなくなることに加えて、将来的な不安もつきまとうことになる。また介護者向けの環境整備(バリアフリー化や介護機器の購入等)に費用もかかるだろう。介護者自身の精神的、肉体的な負担の増加も予想される。

一方、介護離職は企業側のダメージも大きいだろう。
働き盛りの労働者が急に離職してしまえば、その補充は大変なことはもちろん、それが管理職ともなれば企業運営そのものにも影響を与えることになる。また将来的には、共働き家庭の増加により専業主婦が介護を担うケースも減っていくと予想される。企業にとっても、労働力確保の観点から仕事と介護の両立の形について真剣に考えていかなければならない時代になる。

政府はこうした状況を踏まえ、介護を理由に仕事を辞めることのないよう、介護現場の労働環境や賃金改善、認知症対策の拡充等を明らかにしている。

「育児・介護休業法」では、要介護状態の家族の介護が必要になった場合、労働者が企業に対して申請すれば、対象家族1 人につき最大通算93日(所定労働日ではなく暦日でのカウント、3回に分けて介護休業取得も可能)の介護休業の取得が認められている。その他、年間5日まで介護休暇の取得が可能で、買い物や通院の補助などに活用できる。

こうした法的整備に加えて、介護認定度合いによって変わるが行政サービスを充実させることなど、国としても介護離職をなくすことに力を入れている。

外国人労働者への期待と課題

2018年度は外国人労働者の受け入れ拡大に関する報道が相次いだ。街中でも働く外国人の姿を見かけることが増えたのではないだろうか。

これまでも日本では多くの外国人が働いてきたが、その勢いがさらに加速すると予想される。ここでは外国人労働者の現状、そして将来的な期待や課題について考えてみる。

1:日本で働く外国人の現状

現在、日本で働く外国人は約146 万人といわれている(2018年10月現在)。前年同期比で約18万人増加し、過去最高を記録している。

以下のグラフは、外国人労働者数の推移を示したものである(※16)。

日本で外国人を採用する場合、事業主は法律に基づいてハローワークへ届け出ることが義務づけられている(※17)。上記のグラフはその届け出数に基づいて作成されたものであるが、11年の間に着実に増加し続け、2013年からの5年では倍増している。その構成は5つに分けられており、それぞれ増加傾向にあることもわかる。

※16:「外国人雇用状況」の届け出状況(厚生労働省、平成30年10月末現在)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472892.pdf

※17:特別永住者(終戦前から日本に居住する在日韓国・朝鮮・台湾人とその子孫の方々/平成29年末時点で約33万人・法務省)については、この外国人労働者には含まれていない。特別永住者は外国人雇用状況の届出制度の対象外であり、確認・届け出の必要がないため。また在留外国人の総数は、特別永住者等の資格で在留しながら就労していない人もおり、その数はさらに増えることになる。

この中で最も人数が多いのは「身分に基づく在留資格」、永住者や日本人の配偶者などである。次いで多いのが「資格外活動」の外国人で、これは留学生を思い浮かべると理解しやすい。留学を目的に在留する外国人が、本来の目的ではない活動(就労)をする場合、「資格外活動の許可」を受けなければならないが、この「資格外活動」の外国人の就労登録が過去5年間で増加傾向にあることがわかる。

ここ数年で耳にすることが増えた「技能実習」での就労も過去5年で増加し続けている。外国人技能実習制度に基づく受け入れにより就労している外国人のことである。

この制度は日本が先進国としての役割を果たすために、開発途上国等への技能、技術、知識などの移転を図り、かつ人づくりを行うためのものであるが、劣悪な労働環境や賃金未払いなどの問題を指摘する声があるのも事実である。

また「専門的・技術的分野」の外国人とは、いわゆる高度外国人材のことで、日本の経済成長への貢献が期待される高度な能力を持つ外国人について、出入国管理上の優遇措置により受け入れを促進するというものである。

対象は
1:高度学術研究活動
2:高度専門・技術活動
3:高度経営・管理活動
で、中でも2の高度専門・技術活動に基づく外国人材が最も多い。

2017 年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、「2020 年末までに10,000人、2022年末までに20,000人の認定を目指す」とされている(※18)。

※18:「高度外国人材の受入れ・就労状況」(法務省・経済産業省・厚生労働省、平成29年)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/koyou/dai2/siryou4.pdf

2:2019年4月から改正出入国管理法、施行へ

外国人労働者に注目が集まるようになったのは、人手不足を背景とする労働市場への外国人材受け入れ拡大の議論が活発化し、その法整備まで進んだためである。

外国人の日本滞在については、入国管理法で活動内容や身分、地位等での分類に基づく登録が義務付けられている。これまでは基本的に高い専門性を持った外国人の就労に限られていたが、これを「特定技能(※19)」に広げ、外国人労働者の受け入れを拡大するというのが2018年12月に可決成立し、2019年4月に施行された改正出入国管理法である。

外国人の在留認定を行う法務省の見解は、「中小・小規模事業者をはじめとした人材不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が生じているため、現行の専門的・技術的分野における外国人材の受入れ制度を拡充し、一定の専門性・技能を有する外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある(※20)」というものである。

これまでは「専門的・技術的分野」に限定されていた外国人の労働が、人手不足状況を受けて、「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れる」という内容へ変更になった。

この法改正とその後の閣議決定などで決まったのは、「特定技能1 号」については2019年4月からの5年間で最大34万5,150人が新たな在留資格を得られるように進めること、介護や建設など14業種での受け入れなどである。また熟練した技能が必要な「特定技能2号」については、家族帯同や在留期間更新なども可能で、日本での永住権獲得の可能性もある(制度開始後数年は受け入れ実施されず)。

※19:「専門的・技術的分野」という在留資格に対し、「単純労働分野」と表現されることのある受け入れ拡大の領域について、「単純労働」という言葉が適切でないという指摘もあることから「人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」として「特定技能」という表現が使われている。

※20:同資料

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。