Society5.0が拓く新しい社会

では、その超スマート社会「Society5.0」では、具体的にどのようなことが可能になるのか。

2000年代半ば頃から、IT(Information Technology 情報技術)に代わる言葉としてICT(Information and Communication Technology 情報通信技術/コンピューターやネットワークなどに関する技術、産業やサービスなどへの展開も含めた総称)が使われるようになった。

ITにCommunication が入った言葉で、情報技術を活用したコミュニケーションのツールや考え方を示すものである。

ICTは情報技術を活用し、人とインターネット、場合によっては人と人をつなぐ役割を担うもので、私たちが日常的に使っているパソコンやスマートフォンも、この技術が進展することによってより便利で効率的な技術に進化している。

その進化はさらに進み、近年はあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things モノのインターネット)が注目を集めている。電化製品や自動車、建築物、医療関連のデバイスなど、その分野は多方面に広がっている。モノから膨大なデータが集まる仕組みは大量のデータを生み出す環境に拍車をかけ、そうした巨大なデータはビッグデータと呼ばれている。

ただし、このビッグデータは、巨大なデータを持つことも重要だが、それだけでは意味をなさないだろう。重要なのはその活用手法であり、それをもって何を成し遂げるかである。その目標達成への道筋を作るのは人間であるが、整理や分析自体をAI(人工知能)が担うことによって省力化、効率化を進めることができるだろう。

また高度な技術と頭脳を持ったロボットが人間の代わりに生産活動を行うことや、介護の現場で手助けをしてくれるなど、数年前に描いていた未来は既に現実になっている。

Society5.0が拓く新しい社会

さらに社会課題の解決に向けては、様々な効果が期待されている。

本章の冒頭でも述べたが、ますます進む少子高齢化は日本の各地に過疎地域を増やしていく恐れがある。そうした地域に暮らす高齢者に対し遠隔診療を行うことができれば、受診機会を増やせることで未然に罹患を防ぐ可能性が高まることや、受診歴や投薬内容等を複数の病院間で情報共有することで、より効率的な診療が可能になり、よりよい医療サービスを提供することができるだろう。

今後社会全体で今まで以上に大きな課題となることが予想されるのが介護問題である。人手不足状況が変わらない中、現役世代が介護離職を選択せざるを得ない状況が続けば、それは雇用者、被雇用者双方にとって不幸なことだろう。

また自分自身が健康を損なって働けなくなることもある。例えば介護ロボットにより介護者などの負担を減らしながらも、テレワーク制度を活用して自宅でも仕事ができる働き方が選択できれば、仕事の継続をあきらめざるを得ないと考えていた人材を引き続き活用できることになる。このように、超高齢化社会に向かう日本では特に、医療や福祉分野での課題解決には大きな期待が寄せられている。

「MaaS」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。Mobility as a Serviceの略で、現在はマイカーを保有せずにカーシェアリングを活用することを示す際に使われることが多いが、この言葉の先には車の自動運転の未来が隠れている。AI や自動運転技術の進展により、無人の車が遠隔地で移動が困難な人たちの生活を支える、そんな未来が来ることを予想させるのだ。

またスマートフォンを用いれば、移動手段の検索、予約、支払などの作業を簡単に行えることでより便利な社会になるかもしれない。自家用車が減ることによる都市部での渋滞減少や環境保全、自動運転車の導入による交通弱者対応、効率的な交通手段選択など、これら次世代の交通の仕組みを表すのが「MaaS」なのである。

また、例えば人手不足に悩む運輸業界で最近注目されているのが「自動隊列走行」である。先行する車の速度に合わせて後続の無人の車が車間距離を維持し、速度を調整して走る。現在は実験段階だが、これが実現すれば物流能力の向上が期待されている。

その他、行政サービスの円滑化や多様な決済手法の広がりなど、社会課題を解決する様々な取組みが行われている。技術が社会を変える、その実現こそ「Society5.0」であるといえる。

ビジネス領域での活用も今後はさらに拡大していくと予想される。

例えば、製造業では業務の機械化のみならず、品質のテスト工程への活用が挙げられるだろう。

センサーやカメラでのモニタリングによる差異の発見と除去の仕組みは、人手不足に悩む企業を支える存在になるはずである。また自社商品から届けられる膨大なデータが適切に蓄積され、分析することで経営課題や提供サービスの改善策がみつかるかもしれない。

小売業でまず思い浮かぶのはPOS システム(販売時点情報管理 Point-Of-Sales System)である。販売実績はもちろん、在庫管理や統計に至るまでの処理が可能であり、仕入れや個客ニーズの分析に用いることができる。またEC(電子商取引 Electric Commerce、インターネット上での売買)を展開していれば、その顧客情報にひも付くマーケティング戦略づくりに活用できるだろう。さらにAIがその戦略作りに関与することも可能性としては考えられる。

このように、経営や事業の戦略づくり、顧客や市場の調査分析、在庫管理や出荷量の調整、自社の予実管理、業務プロセスの効率化など、ビッグデータを活用することにより可能になるビジネスの機会はたくさんあると考えられる。少子高齢化社会や人手不足など、国内市場の縮小と労働力不足が今後もさらに進むといわれる中、持続的成長を促す効果的な手法として、これらの新しい仕組みには注目が集まっているのである。

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。

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